転換期となった2020年個人情報保護法改正~抑えておきたい経緯とポイント【第4回】

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個人情報保護法を改正する法律が2020年6月12日公布され、施行を待っていますが、個人情報保護法体系の整理の議論が進み、現在開会中の令和3年通常国会で「公民一元化」の法案審議中です。
個人情報保護法制の「3法統一」という議論も進んでいましたので、単に“個人情報保護法改正”と書くとどれを差すのか紛らわしいことになりました。

そこで、「転換期となった2020年個人情報保護法改正~抑えておきたい経緯とポイント」と題し、何がどうしてどうなっているのか整理しよう、という試みがこの連載記事です。
さて、全体もくじは以下になります。

連載記事もくじ(第1回~4回)

  • 第1回:3法統一から公民一元化に転換した2020年記事はこちら
  • 第2回:現状の個人情報保護制度記事はこちら
  • 第3回:個人情報保護制度の公民一元化記事はこちら
  • 第4回:この先のデータ社会に向けた課題(★今回はこちら)
    ・国際的な制度調和と経済活動
    ・この先の個人情報保護制度

公民一元化の概要や背景、さらに内容に少し触れながら、3回に渡って解説してきました。消化不良のところもあったと思いますが、ご了承ください。今回が連載最終回になります。

第1回あらまし

  • 公民一元化の概要
    行政機関個人情報保護法(行個法)、独立行政法人等個人情報保護法(独個法)、個人情報保護法(個情法)、個人情報保護条例(個条例)を一元化して新個人情報保護法とし、個人情報保護委員会が一括して所管することを「公民一元化」という。
  • 3法統一から公民一元化への経緯
    2020年6月に改正されたのは「個情法」、2020年前半までは「行個法」「独個法」「個情法」を統一する「3法統一」を検討していたが、2000個問題を解決するため個条例を含めた「公民一元化」に転換した。
  • 新型コロナ禍で露呈した2000個問題の不都合
    2000個問題により、自治体が提供するコロナアプリや厚労省のコロナ感染管理システムの全国展開速度を遅らせることになった。

第1回の記事はこちら

第2回あらまし

  • 個人情報保護制度の制定経緯
    現在の日本の個人情報保護制度は1980年の「OECDプライバシー8原則」が端緒になって、1988年行政機関個人情報保護法、1984年福岡県春日市個人情報保護条例からの地方公共団体での条例制定の広がり、2003年個人情報保護法の制定に至ったことで今日の骨格が形作られた。
  • 地方公共団体等が定める個人情報保護条例の”2000個の”姿
    地方公共団体が定める個人情報保護条例は都道府県47、市区町村1741合わせて1788団体あるが
    一部事務組合等が1562団体あるため3000を越えている。
    ほとんどの地方公共団体の規律は、”国の規律に対して少なく” 且つ ”国の規律より多く” 且つ ”手続きを付加”したものとなっている。
  • 2000個問題の整理とその影響
    2000個問題は、規律がバラバラであるとともに、たとえ同じ規律であっても事案ごとに都道府県あるいは市区町村が個別解釈し独自に運用を決めることも問題になっている。これは、個人データの広域連携のみならず、オープンデータ政策、グローバル経済に関係する越境データ問題にも関係する。

第2回の記事はこちら

第3回あらまし

  • 公民一元化の全体像
    概要は第1回で書いた通りだが、規律の括りは、大きく公的部門、規律移行法人等、民間事業者の3つになる。規律移行法人等とは、独立行政法人等や地方公共団体の病院・大学等及び地方独立行政法人の中から設定する。
    匿名加工情報は公的部門と民間事業者で詳細規律は分かれてはいるが、「非識別加工情報」としていたデータ類型を「匿名加工情報」に一本化することで抜本的な見直しが行われ、運用上の障壁は大分取り払われる。
  • 規律移行法人等の規律
    データの利活用に関わる規律は民間、データ管理に関わる規律は公的部門に見える。
  • 地方公共団体等の規律
    独立行政法人等と同等になる都道府県と市区町村、組合等の団体、その中で病院や学校などの規律移行法人等の二つになる。匿名加工情報の扱いは、「当分の間、都道府県及び指定都市について適用することとし、他の地方公共団体等は任意で提案募集を実施する」との経過措置とする。

第3回の記事はこちら

以上がこれまでのあらましとなります。
そして連載第4回は、「この先のデータ社会に向けた課題」についてお伝えしたいと思います。

第4回あらまし

  • 国際的な制度調和と経済活動
    日本の成長戦略の中で、国際的に調和のとれたルール整備が基本となっており、自由貿易と個人情報保護、データ保護は密接に関わりあっている。
    EUとは日EU経済連携協定(EPA)に伴う物品とデータの自由貿易の中で日本の個人情報保護制度が評価され、同時に米国の経済圏における監視下におかれている。
  • この先の個人情報保護制度
    公民一元化による2000個問題の先にある日本の2040年の姿と自治体が乗り越えるべき課題、プライバシー権を視野に入れた個人情報保護制度あるいはデータ保護制度について専門家の見識を踏まえて考える。

なぜここまで共通ルール化=公民一元化をがんばるのか、「地方公共団体の個人情報保護制度の在り方(改正の概要)」最終報告概要の趣旨にヒントがあります。

趣旨

  • 社会全体のデジタル化に対応した「個人情報保護」と「データ流通」の両立が要請される中、
    ・団体ごとの個人情報保護条例の規定
    ・運用の相違がデータ流通の支障となりうる
    ・求められる保護水準を満たさない団体がある 等の指摘。(いわゆる「2000個問題」)
  • 独立した機関による監督等を求めるEUにおけるGDPR(一般データ保護規則)十分性認定など国際的な制度調和とG20大阪首脳宣言におけるDFFT(信頼ある自由なデータ流通)など我が国の成⻑戦略への整合の要請。
  • こうした課題に対応するため、地方公共団体の個人情報保護制度について、全国的な共通ルールを法律で規定するとともに、国がガイドライン等を示すことにより、地方公共団体の的確な運用を確保。

(赤文字の強調は筆者による)

引用4-1:地方公共団体の個人情報保護制度の在り方(改正の概要)趣旨

一番目と三番目は今回の公民一元化で解決するべき課題でしたが、二番目に挙げられた赤文字に注目です。ここの「国際的な制度調和」、「我が国の成長戦略」は継続した取り組みが必要であり、今後のデータ社会に向けた課題のヒントになります。

(1)国際的な制度調和と成長戦略

世界各国は、デジタル社会においてデータが国の豊かさや国際競争力の基盤になると考え、戦略を推進しています。政府はデータ戦略の策定にあたり、「ルール、ツール、データの3点セットを作るのが基本」とするなかで、個人情報保護制度の公民一元化はルール整備にあたり最初の一歩になります。

大きな流れを考える上で参考になると思いますので、G7伊勢志摩サミット2016において地球規模の経済的及び政治的な主要課題に対処するための以下の宣言を紹介します。

G7伊勢志摩首脳宣言 (平成28年5月27日)より
我々は,プライバシー及びデータの保護やサイバーセキュリティを尊重しつつ,インターネットの開放性,透明性及び自由を確保するため,情報の自由な流通及びデジタル・エコノミーの全ての主体によるサイバー空間への公平かつ平等なアクセスを促進することにコミットする。我々は,オンラインでの人権の保護及び促進にコミットする。(p14)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000160267.pdf

世界の貿易はリアルな物品の流通と並行して情報もインターネット経由でサイバー空間上を流通しており、そのサイバー空間への自由アクセスと人権保護が重要だとしています。つまり自由貿易と個人情報保護、データ保護は密接に関わりあっています。

【参考】データ戦略策定の背景と国際連携

図4-1:データ戦略の策定背景

図4-2:データ戦略の策定における国際連携

さらに日本政府のデジタル社会の実現に向けた改革の基本方針として国際連携を確認しています。

国際連携

社会のグローバル化・デジタル化が急速に進む中、データの収集、分析、加工によって生み出される経済的・社会的な価値はますます高まっており、新たな価値の創出に向けてグローバルな競争が加速している。そういったデータがもたらす価値を最大限に引き出すには、国境を越えた自由なデータ流通を確保することが重要である。一方で、プライバシーやセキュリティ等、データ流通に関連する制度は、各国の歴史、国民性、産業競争力、政治体制などに応じて、依然として様々であり、中には、デジタル保護主義の観点から、自国から他国へのデータ移転を制限するデータローカライゼーション等の規制を設ける国が出てきている。こういった規制が国際的に広がっていくと、データの自由な越境流通が阻害される恐れがあり、我が国としても、データ流通に関連する国際的なルール作りや討議等を通じて、「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」を促進し続ける必要があるところ、データ戦略においても、DFFTの推進方法を具体化する必要がある。

引用4-2 日本のデジタル社会の実現に向けた改革の基本方針
出典:データ戦略タスクフォース 第一次とりまとめ令和2年12月21日デジタル・ガバメント閣僚会議決定 p40

さて、日本の個人情報保護制度に影響を与えている欧州と米国のデータ保護、個人情報保護制度について確認します。

欧州連合(EU)のデータ保護制度(個人情報を含む)

1995年にEUデータ保護指令が成立しEU加盟諸国は指令を元に自国の個人情報保護を含むデータ保護制度を整えてきましたが、2018年5月EU全体の法律として規定された一般データ保護規則GDPRに置き換えられました。GDPRは高額な制裁金を定め違反した場合のインパクトの大きさなど話題になり記憶に新しいと思います。EUデータ保護指令およびGDPRは日本を含む世界各国の個人情報保護法制に影響を与えています。
EUのデータ保護制度はGDPRと「刑事データ保護指令」で成り立っています。GDPRの指す「一般」は民間と公的機関を対象としており、一般の対象外は刑事データになります。

欧州基本権憲章では、「あらゆる人は、自ら個人情報を保護される権利を有する」としており、基本的人権が守られない国又は地域の移転は原則禁止されています。その利用は例外として扱いGDPRはその個人の権利を守るために制定された法律です。EUとデータ保護レベルが同一と認定される十分性認定を受けることで越境データ移転が国単位で簡便になる制度があり、日本も平成27年の個情法改正時は欧州の当時一般データ指令を意識して改正されました。法律の専門家の先生方は十分性認定を受けるには再改正または再々改正が必要と思っていましたが、民間部門だけではありますが2019年1月十分性認定を受けることになりました。

背景には日EUの貿易問題が絡んでおり、2019年2月に発効した日EU経済連携協定(EPA)を補完するものとして物品とデータの自由貿易の効果を最大限に利用しようとしたEU側の思惑があったため政治決着的に落ち着いたように見えます。
個人情報保護委員会は日本の個情法で足りない規律を「個人情報の保護に関する法律に係るEU及び英国域内から十分性認定により移転を受けた個人データの取扱いに関する補完的ルール」として公表しましたが、これで本当に足りているか疑問の声が上がっていました。さらに、公的部門の個人情報保護法制は、独立規制機関による監視が及んでいないことから、十分性認定の対象とはなっていません。
今回の公民一元化は補完的ルールで足りていなかった制度をカバーする目的もあります。

この補完的ルール本文に、公表日、施行日、改定日とか履歴が無いのはどうなんでしょう。個人情報保護委員会の報道発表履歴にも無いし。

【参考リンク】

米国の個人情報保護制度

米国の考え方は、データの自由な流通が原則、個人情報の保護が例外であり、例外も自由な裁量に基づくのではなく、国際的な水準に従ったものであるべきとしています。
その上で中心となるのが、公的部門では連邦プライバシー法、民間部門ではFTC法5条、さらに多数の個別法と州法で規律されています。
しかし、法が緩く見えてもFTC=連邦取引委員会がキッチリ見張っておりGAFAたちは都度多額の課徴金を徴収されながら学習しています。FTCが取り締まるのは商業活動に関わる不公正または欺瞞的な行為または慣行であり消費者が被った事実を見て処分しますが、先月のニュースではユーザーからのデータ収集・使用に関する情報の提出をアマゾンやフェイスブックなどに求めたことが報道されその権限の強さが垣間見られます。

アマゾンやフェイスブックにFTCが情報提出命令-データ収集に関し
(Ben Brody、David McLaughlin 2020年12月15日 8:54 JST)

一部の意見に日本の個人情報保護法制を米国並に規制緩和しろ、などの声をききますが、消費者保護の仕組みがしっかりしているがために出来ることであることを忘れてはなりません。そういう意味では、今の日本に足りないのは消費者を騙す行為に対する監視と罰則を伴わせる仕組みを入れることかもしれません。もちろん企業での意識向上も重要ですが、消費者、市民レベルでの啓蒙活動やリテラシー向上も重要です。「個人情報だから...云々」を口実にした思考停止、活動停止が発展を阻害すると考えます。

一方、米国はEUとの関係においてはEUと全く異なる考え方と法体系になるため十分性認定は受けらず、EUから米への個人データ移転はプライバシーシールド協定に則って行われてきました。しかし、2020年7月のシュレムスII判決によりプライバシーシールド協定が無効化されSCC「標準契約条項」を用いて個人データ移転を行うことになります。GAFA等大手はSCCによる個人データ移転手段を持っていますが、他のベンダーは対応に追われていると思われます。プライバシーシールド協定に代わる新しい枠組みについての調整は進んではいますが決定は未だのようです。

この辺は別の機会で解説したいと思います。

(2)この先の個人情報保護制度

今回の個人情報保護法制公民一元化によってオンライン結合規制の廃止、審査会の役割変更によりLINE社やHER-SYSで起きた阻害要因は無くなると思われます。これはあくまで顕在化した不都合に対する対処であって本来目指していることはその先にあります。
現在、民間においてはGDPRの考え方であるコントローラ(管理者)とプロセッサ(処理者)を当てはめてガバナンス体制や、プロファイング(システムにより自動決定)を回避するスキームを検討してグローバル基準に合わせたデータ運用を行っているケースがありますが、これを法制化することも視野に入ると思われます。

大局的に見たときの考え方は専門家のご意見を伺うことが必要ですので、ここで新潟大学大学院現代社会文化研究科・法学部鈴木正朝教授のお言葉を借りたいと思います。
鈴木教授は、週刊ダイヤモンド2020.9.26号「賢人100人に聞く!日本の未来」の特集で「個人情報」の項目で2000個問題についてコメントしています。個人情報保護法改正、JISQ15001起草、Pマーク制度創設、2000個問題解消等に関与してきました。
以降の鈴木教授のコメント引用はご本人の許可をいただいております。

2000個問題のその先の課題

この課題を考えるにあたり、日本の自治体が抱える問題を理解する必要があります。

鈴木正朝教授のお言葉1
2000個問題は入門ドリルの1問目と言ってきましたが、 一つに新しい地方自治制度に向けた次世代基盤政策へのまずは議論に入らないと。もう完全に遅れています。
真の地方自治の本旨は、こうした地方自治制度をいかに維持継続していくかであろうと。自由な社会と身近な民主政治を実現していくか。また、構造的に悪化の一途にある1票の格差をいかに具体的に解決して、日本国全体の民主制度の基盤を維持していくかにあるのだろうと思うのですが。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000562116.pdf
そして、発展編においては、統治機構の再点検も視野に入れないともたないのではないかと思います。少なくとも議論は興していくべきです。
視野狭窄の中で小さなリアリティの中で直進運動のまま大穴に落ちてしまうか。20年、30年前から着手して大穴を迂回していくかのこれもまた実にシンプルな問題であるし、言えることはこういうところを見据えねば確実に政府の機能は衰える。経済大国はおろかG7の一角、先進国クラブであるOECDの参加資格も問われるほどの存在感ない貧しい国に冷温停止をはじめること必至ということです。
すでに総務省がここまでの報告書を出されている。腰が重い役所ですら認識している。選挙区抱える先生や、当事者たる自治体や住民には不本意であっても現実は変わらない。不愉快だと言っていてもはじまらない。ただただ人口は減り続け、働けない高齢者の比率が高まっていく、みなわかりきっていることを前に、抜本的解決の議論すらしぶっている。
圏域構想にノーといったなら、自治体が同様の境遇にある自治体とかけあって自ら対案を作り提言しないと。
B級グルメやゆるキャラやお祭りをPRしてみても構造的な問題に対応することには限界があります。
引用4-3地方自治2000個問題のその先の考え方
出展:新潟大学鈴木正朝教授2020年12月22日 facebookより

鈴木教授のお言葉を紐解いて行きましょう。
お言葉の7行目にあるURLは、総務省が平成30年7月の「自治体戦略2040構想研究会」での報告書「自治体戦略2040構想研究会 第一次・第二次報告」を指しています。

その報告書によれば、2040年には自治体が軒並み人口減少すなわち税収減少となり、社会インフラ、生活インフラ、公共サービスでさえ縮退を覚悟しなければならないように見えます。その時、自治体は半分の職員でも自治体機能を維持できる仕組み作り、さらには複数の自治体が支えあう新しいシステムの構築が求められるとしています。

今でも橋やトンネルなどの社会インフラの維持危機が顕在化してことを鑑みると、早晩、上下水道の維持管理、医療や防災面を含めた居住可能地域を設定せざるを得ないと思われます。そのとき自治体区分に依拠しない生活圏を構築し、その生活圏の運営を最適化へ向けた働きかけが次の活動ではないでしょうか。
まずは国民が自分事として足元の人口減少を直視し、その結果起こること、その対策を考えたときにルールの一元化どころか全体最適の視点でシステムを作り上げることが重要となります。

鈴木教授は、この状況を踏まえ近視眼的な地域への集客活動や話題作りといった活性化施策ではなく、抜本的解決に向けた議論を踏まえたシステマティックな対策を取ることを説いています。

プライバシー権と個人情報保護を考えよう

ここまで個人情報保護制度について見てきましたが、そもそも個情法の目的が曖昧なことで様々な議論を呼んできました。
個情法第一条の目的には「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする」としつつ「個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定める」となっています。「個人の権利利益の保護」という目的範囲が広く抽象的すぎることに対して、定めていることは事業者の義務ということから議論の発端となっています。例えば、著作権法の目的として「第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」となっており、個情法の曖昧さが分かると思います。
先にご紹介した通り、欧州は人権保護を目的とした法構成で、米国はプライバシーの権利侵害を視点として法執行をしていますが、日本において人権侵害やプライバシー侵害は個情法で扱っていません。
図4-4に鈴木教授の講演資料「個人情報とプライバシー権に係る情報の関係」を示しますが、プライバシー権の争いは個情法が定める外側で起こっています。

鈴木教授は同じ講演で「人権の具体化と行政組織」を示しています。憲法で定める人権の尊重とそれから想起されるプライバシー権の下、個情法を改正した情報プライバシー保護基本法を定めるということを提案しています。

この背景を踏まえつつ鈴木教授の最近のお言葉を紹介します。

鈴木正朝教授のお言葉2
2000個問題解消したところで経済に即効性があるわけではない。前提の前提を整備するだけだ。次に何をやらねばならないか。データ社会における人権保障をどう具体的に手当するか。経済成長に即効性のある立法政策は何か。二の矢、三の矢を用意しているのか。
結局、特区や規制緩和がまた息を吹き返す。
失敗の繰り返しほど愚かしいことはない。とりあえず、個人情報保護法制の解説において、いったんプライバシーの権利という用語から離れることとして、それを使わずに説明して、その法目的の、個人の権利利益の保護の中味を吟味し各義務規定を体系的に説明できるか確認して腹に落ちてから、それもまたプライバシーの権利に包摂されると言うなら言えばどうかと思う。
もとよりプライバシーの権利の原意は、名誉権以外の精神損害をほぼ全てカバーするような概念であり、日本の法曹の常識感であれば人格的権利利益という保護利益に包摂された感覚であろうが、個人的保護利益より広い概念であり、集団のプライバシー権も観念される。
米国不法行為法の概念を日本の民法の709条の被侵害利益の一つとして木に竹を接いた中でそういう常識が形成されただけではないか。国内法に閉じている分にはその常識でいいとは思うが、日米欧DFFTによるデータ版貿易立国を目指すのであれば、その違いのニュアンスは重要かもしれず。ウォーレン・ブランダイスの論文を今一度、Propertyの一般用法と特別用法の違いという補助線を引いてもらってから文中に出てくるPropertyがどっちの意味で語られているかを確認しながら読み返しておく作業も重要ではないかと思われる。
何を分析しても出口がプライバシーの権利の重要性ということでは、結局何も語っていないことになるくらいにだだっ広く、多義的概念である。宴のあと事件のもたらした負の側面も総括すべき時期かもしれない。しかし、早稲田大学江沢民名簿提出最高裁判決以前の宴のあと事件の碩学の判例評釈を未だに引用し続けて、最高裁判例をスルーする結果となる現象をなんというべきか。
脳内で補訂しながら使わねばならない。ゾンビのように永遠にリーディングケースになってしまう。

その上で、また個人情報保護法に立ち返り、そこでの議論と同じかどうか、あらためて考えてみたらどうだろう。

引用4-4:この先の個人情報保護法制の考え方
出展:新潟大学鈴木正朝教授2021年1月3日 facebookより

鈴木教授のお言葉2では、欧米の人権やプライバシー権の議論と伍して交わす準備として、国内における考え方の醸成を専門家のみならず事業者、生活者すべてにおいて行う必要があることを示唆しています。
ただし、このお言葉は専門家に向けて発したもので、ここで私が要約したり解説したり一言一句を理解しようするのは無理があると思いますし、色々なご意見や異論もあろうことと思いますので、雰囲気だけでも察していただけたら幸いです。

また、以下の講演資料も参考になると思います。

以下はお言葉を踏まえて筆者が思うことです。
「プライバシー」について日本においては社会的に通じる定義すら無く、個人においても時と状況により変わったりします。プライバシーポリシーを掲げている幾多の事業者がありますが、事業者の一方的な宣言であって社会的なコンセンサスはありません。全くのフリーハンドでは議論も何も無いので、まずは専門家から事業者に判るように論点整理と検討の方向性を示しいただきながら、事業者と生活者のコミュニケーションの輪を広げるようなことができれば理想でしょうか。
言うは易しで、五輪組織委員会で国際問題になって初めてジェンダー問題に気が付いたような行動する私たちに、プライバシー議論に辿り着けるか楽観してはいけないと思います。
建前上は国際基準で物事に取り組んでいるように見える日本ですが、人権に関わる意識-五輪組織委員会でのジェンダーに関する考え方や態度が問題視されました-が未成熟であることは否めません。まして、プライバシーに踏み込むメディア、差別的な行動を取る自粛警察、それに対して容認あるいは支持的な態度を取る社会的風潮を鑑みるに世界基準への道は遠いと感じるのは私だけでしょうか。
例えば、googleストリートビューに対する初動措置、顔認識システムにおける人権問題の議論について日本ではほぼスルーでしたし、顔認識システムでは今後も日本ローカルな反応が物議を呼びそうです。
(「ストリートビュー 人権」、「顔認識 人権」で検索するとそれなりに出てきます)

まずは世界で起こっていることを理解することが重要であり、その上で私たちが守るべきことを明確化し、それに対するルールを定めて社会に浸透させているということ、それを相互に認める合うためのプロセスを繰り返すことが必要になっていると思います。

ここから先はみなさん考えましょう。

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WRITER

Atsushi Kuromasa

黒政   敦史 Atsushi Kuromasa

●外部参加団体や活動・・・情報処理学会 電子化知的財産・社会基盤研究会(EIP) 幹事、CSS2021 PWS2021実行委員、情報法制学会 会員など。 ●最近の論文・寄稿・・・「"匿名加工されたデータの利活用に向けた課題","黒政敦史","学術雑誌『情報通信政策研究』3巻2号"」、「"PWSCUP2020コンテスト:AMIC ("Anonymity against Membership Inference" Contest)", "千田 浩司 , 荒井 ひろみ , 井口 誠 , 小栗 秀暢 , 菊池 浩明 , 黒政 敦史 , 中川 裕志 , 中村 優一 , 西山 賢志郎 , 野島 良 , 長谷川 聡 , 波多野 卓磨 , 濱田 浩気 , 古川 諒 , 山田 明 , 渡辺 知恵美","コンピュータセキュリティシンポジウム2020論文集,1245-1252 (2020-10-19) "」、「"PWS Cup 2019: ID識別・トレース推定に強い位置情報の匿名加工技術を競う", "村上 隆夫,荒井 ひろみ,井口 誠,小栗 秀暢,菊池 浩明,黒政 敦史,中川 裕志,中村 優一,西山 賢志郎,野島 良,波多野 卓磨,濱田 浩気,山岡 裕司,山口 高康,山田 明,渡辺 知恵美","コンピュータセキュリティシンポジウム2019論文集,2019,1485-1492 (2019-10-14) "」、 「"匿名加工情報および非識別加工情報の運用整理と利活用に関する考察", "黒政 敦史", "情報処理学会 研究報告電子化知的財産・社会基盤(EIP),2019-EIP-84(2),1-8 (2019-05-27) , 2188-8647"」、「"個人データの保護と流通を目的とする匿名化と再識別コンテスト:PWSCup", "小栗 秀暢 ,黒政 敦史,中川 裕志,菊池浩明,門田 将徳", "情報処理学会デジタルプラクティス Vol.9 No.3 (July 2018)"」、「"ビッグデータの加工・取扱 -匿名加工情報の役割と活かし方-", "黒政 敦史", "情報処理Vol.59No.4Apr.2018 小特集 情報社会 -今そこにある課題-"」、「"匿名加工情報の加工方法と有用性・安全性指標の考察~匿名加工・再識別コンテスト2017から~", "黒政 敦史 , 小栗 秀暢 , 門田 将徳", "情報処理学会 研究報告電子化知的財産・社会基盤(EIP),2017-EIP-78(9),1-8 (2017-11-22),2188-8647"」

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