在庫最適化における投資対効果の話 ~AIプロジェクト予算取りのための秘訣~

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皆さん、こんにちは。データディレクターを担当している林です。

本日は、AIを導入するとなった場合に誰しもがぶつかる壁、「投資対効果・費用対効果」についてお話したいと思います。

なぜ、AIプロジェクトは投資対効果の見積が難しいのか?それは、予測結果が不確実だからです。
実際にデータをみて、前処理を施し、AIのモデルを作ってみないとどれくらいの予測精度が出せるか分かりません。
そのため、精緻な効果の見積もりというのは、プロジェクトの予算取りをする前にはできないのです。

当たり前ですが、「AIはやってみないとどれくらい効果が出るかわかりません。でも挑戦してみます。成功するかはわかりません。」では、予算は通りません。
そういった不確実性の中で、いかにしてAIプロジェクトの予算を取るのか、そのアプローチをとある在庫最適化プロジェクトに基づいて解説します。

Step1. 課題・目標設定

社内の特定の業務をAIを用いて改善したい、効率化したいとなった時、皆さん胸に手を当てて自分に問いかけてください。
“それ、本当に困ってますか?AIとかやってみたらなんか注目が集まりそうだな~って気持ちで着想してないですか?”

業務を改善するにあたって、適切なアプローチはAIが全てではありません。
データと業務の特性から、AIなのかRPAなのか、はたまた別のアプローチなのかを総合的に判断します。

初めからAIが目的化してしまっている場合、
改善したい業務のフロー、現状そこにどれくらいの工数を費やしていて、どういった状態になるのが理想なのかという部分に向き合えていないことが殆どです。
そのような状況で、「おし!AIやってみるか!」と勢いだけで突破できるものではありません。

とある食品製造業様の在庫最適化プロジェクトでは、以下のように課題・目標設定を行いました。

ⅰ.改善したい業務フロー

①生産数の確定→②社内ツールにて発注数の自動集計→③担当者よって在庫状況などを反映させた形に修正→④本発注
生産予定数から発注量を自動集計するロジックは自社内のツールにて組み込まれているが、他にも考慮すべき要件(食材の賞味期限や在庫状況など)が複数あり、結局担当者の手で自動集計後のデータを修正する作業が発生している。

ⅱかかる工数

自動集計をかけてから、担当者が修正を加えることで、全体の発注金額の20%程金額がダウンしている。
各事業所の担当者がこの作業を行う時間は、10h/週であり、事業所は50箇所あるため、全体で500h/週の工数を費やしている。

ⅲ課題

自動集計後のデータ修正作業が、各事業所の担当者に属人化している。
担当者は他の業務との兼業であるため、発注データの修正作業に時間を割けないこともある。
他の業務に注力できるように、修正作業を可能な限り自動化したい。
※ただし、一部担当者によって修正の仕方に癖があったり、全事業所の担当者に一人ずつ修正項目をヒアリングするのは現実的ではないため、担当者の修正作業を完全にAIで自動化することは目指さない。会社として、この項目は修正してほしいという最低限のラインのみ自動化し、事業所ごとのアレンジは各担当者の責任によって行うものとする。

ⅳ目標

このプロジェクトにおける数値目標は2つあり、1つ目は「AIによる自動修正によりダウンする発注金額を20%になるべく近づける」ことと2つ目は「修正作業にかかる担当者の工数をなるべく減らす」こと。
1つめの目標の方が金額的には大きいため、今回はこちらを最優先とする。

ここで重要なのは、現状の業務に関してどれくらいの工数がかかってるかを数字として算出すること、そしてどういった状態になるのが理想なのかを明確にすることです。
ここを飛ばして課題設定をしてしまうと、結局AIを導入したところでどれくらいの効果が見込めるのかも不透明になります。

Step2. 実現可能な範囲の切り出し

まず、前項に示した「会社として最低限自動化したい修正項目」をリスト化します。
この洗い出し作業はもちろん弊社がご支援しながら進めることもできますが、お客様の中で洗い出しを済ませていただくほうがスムーズですし余計な費用も掛かりません。
例えば、以下のようなイメージです。

項番

仕入れ額への影響度 考慮すべき要件

備考

1 成分Aを〇g以上含む材料である 対象製品: 商品コード1~10
2 成分Bを〇g以下含む材料である 対象製品: 商品コード11~20
3 材料αの在庫保有期間は1週間とする 1週間過ぎたら廃棄する
4 在庫保有可能な量は、各事業所の倉庫の大きさを基準とする 各事業所の倉庫の大きさはデータ化されていない

 

こちらはあくまでサンプルです。実際は数10の要件がありました。

今回は、「仕入れ額への影響度」と「かかる工数」のうち、前者を最優先としましたので、実現可能なもののうち、仕入れ額への影響度の高いものから着手していくこととします。
つまり、優先度は項番1⇒3⇒2となります。
項番1~3に関してはデータソースも明確で実現可能ですが、項番4に関してはデータが存在しないということで今回は対象外とします。

Step3. 技術的アプローチの検討

課題に対して初めからAIを適用させることを前提とはしません。
AIを導入するには膨大な費用が掛かりますし、精度が100%をたたき出すことはありません。
そのため、0→1の判断を下すようなものや、判定ミスがクリティカルな問題になる業務の場合AIが向かない場合もあります。
弊社ではお客様の業務の特性、確保できる予算の条件などから、総合的に判断して複数のパターンのアプローチを検討します。

今回は、組み合わせ最適化ロジックを用いて「費用最小」かつ「在庫最小」となる結果を出力するAIモデルの開発を行います。
例えば「成分Aを〇g以上含まなければいけない」商品コード1~10のうち、まとめ買いが可能な場合は、まとめて仕入れたほうが費用は抑えることができます。
しかし、規格が違う安い食品を買い込みすぎて在庫を余らせてしまっては本末転倒ですので、この「費用」と「在庫量」に関する制約条件を全て満たした上で最適な在庫量(発注量)をはじき出すということです。

Step4. 投資対効果の試算

今回は、「仕入れ額への影響度」と「かかる工数」という2つの観点がありました。
それぞれに対して、以下のように仮説を立て投資対効果の試算を行いました。

仕入れ額への影響度

項番1~4に関して、全てを反映することができれば全体から20%のコストダウンが見込めるとのことでした。
項番1~3について実装するとなった場合、例えば修正項目のうち3/4は反映できるので10%以上のコストダウンは見込めるだろう、と想定して
全事業所に展開した場合、年間のコスト削減効果、投資金額に対して回収できるのは何年後、、、といった具合に計算をします。

本当に「10%は削減できる」と言い切っていいのか?と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
もう少し数字を確かなものにするために、例えば、ルールベースで項番1~3を実装してみます。
実装というと大層なものに聞こえるかもしれませんが、項番1「成分Aを〇g以上含まなければいけない」というのはExcelの関数で簡単に書くことができますので、お客様でも作業可能な範囲です。
ルールベースで仮に10%の削減効果が見込めた場合、最適化ロジックに書けたときはさらに効果が得られるのではないか、という仮説を立てるわけです。
ルールベースですと、「規格違いのより安い食品を購入する」といったロジックを組み込むことはできませんので、最適化ロジックより削減効果が薄くなるかと思います。
逆を言えば、予算取りの段階で、お客様自身にてExcelなどでルールベースのロジックを組むことができれば、それ以上の効果はかなりの確度で見込める!と言い切れるわけです。
実際、このプロジェクトではルールベースにて算出した結果でもかなりのコストダウン効果が見込めたため、最適化ロジックを組むための予算取りがスムーズにいったという背景があります。

かかる工数

現状の修正作業には、500h/週の工数がかかっているとのことでした。
では、今回全体のうち3/4の項目を反映できた場合、少なくとも半分の工数に削減できるだろう、と想定をします。
各項目の修正にかかる時間は担当者ごとに違ってくるかもしれませんが、もっと正確に計算したい場合は、各項目の作業にかかる時間をそれぞれ書き出してみるといいかもしれません。

おわりに

繰り返しになりますが、投資対効果を試算する際に重要なのは、まず現状の工数を把握していること、そして可能な限り具体的な仮定を立てて数字を見積もること、です。
この仮説立てと試算のシミュレーションは、何より現場で作業をしている人の意見が最重要です。

是非、今回お示ししたStep1~4の流れで、自社業務の整理と目指すべき姿を検討してみてください。
以上、最後までご覧いただきまして誠に有難うございました。

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WRITER

Maako Hayashi

林   真亜子 Maako Hayashi

AI・データ活用のディレクターを担当。お客様のAI活用のプランニングから プロジェクト推進を支援。 JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #3

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