船員や家族の孤独を解消するプロダクトについて考え始めました。まずは当直業務の改善から取り組みます。

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Photo by Shaah Shahidh on Unsplash

こんにちは、データデザイン部でディレクター兼プロダクト開発を行なっております宮崎です。
本記事では私が今取り組み始めた海運業界の課題解決、特に船舶の見張り業務(当直)の自動化・省力化に関するプロダクトについて、思考プロセスを含め記載しました。
考えがまとまっておらず読みづらい点などあるかと思いますが、是非、海運業界の方にご覧いただき、フィードバックをいただければと考えています。よろしくお願いいたします。

目次

はじめに

弊部では「データソリューション」「データサービス」の2つの業務があります。データソリューションはいわゆる受託開発です。データサービスは各種データ(加工した地理空間データ、人流データ、衛星データなど)を提供するのが主ですが、データソリューションを通じて得た知見をまとめてプロダクトとして提供することもデータサービスのスコープの一つです。今回はこちらの話です。

方針

「データソリューションを通じて得た知見をまとめてプロダクトとして提供する」と言いますが、弊社では幅広く業務を行なっており、どこの知見をまとめるか、方針が肝になります。コアバリューや市場のニーズ、私が熱量をかけられるかと言うところも大事なポイントです。ということで、人材育成でよく使われるwill,can,mustに合わせて考えてみました。

can(弊社のコアバリュー)

弊社のコアバリューは「ユーザ目線で役に立つ(使える)モデルをオーダーメイドで構築できる」です。これだと抽象度が高いのでもう少し具体化します。すると「製造業、物流業のお客様向けに、物体検出/画像識別/画像生成などの画像解析技術とお客様のデータを用いてモデル開発を行い、お客様の現場で利用しやすい形でご提供することができる」となります。だいぶイメージつきやすくなったかなと思います。ちなみに具体例をあげるなら「製品の傷の検知アプリ」「倉庫内にある商品のタグを読み取るシステム」などがコアバリューを活かしたソリューションになります。

will(私がやりたいこと)

やりたいこと、たくさんあります。
たくさんの中でも上記コアバリューを前提とすると物流業、中でも「海運業界の課題解決」が今取り組んでみたいことです。なぜ海運業界の課題解決なのかと申しますと、私の父と弟がタンカー(ケミカル)の船長、航海士であるのと、前職で船に関するプロダクト開発 に携わっており、海、船舶の問題を身近に感じているからです。

must(市場ニーズ)

国内の海運業界のマクロ的な市場をみてみます。
e-Stat(政府統計の総合窓口)から2019年の内航船舶輸送統計調査(貨物輸送に関する調査)を確認します。

近年の内航船舶輸送量はトン、トンキロ共に横ばい、または緩やかに減少していることがわかります。

船腹の需要供給の関係はどうでしょうか。 三井住友銀行発行の海運市況動向と業界各社の戦略の変化を引用させていただきます。

折れ線で表示される需給ギャップから、金融危機以降は供給過剰な状況が深刻化していることがわかります。本資料発行の2018年時点ではバランスが改善していく見通しとなっておりました。しかし、2019年末以降では新型コロナウイルス感染拡大により自動車メーカーの工場稼働停止などが発生、海上輸送の需要は減少しており、供給過剰の状況は続いているものと考えられます。
(旅客輸送については調べ切れておりませんが、直近の新型コロナウイルス感染拡大の影響は貨物輸送より大きいのではと考えております。)

これらから、海運業界に関しては輸送量拡大などの売上向上施策よりも、効率化や人件費削減、事故による損失減少などコスト削減施策のニーズが強まるものと推察されます。

仮説

will,can,mustから、プロダクトを考える対象が「画像解析技術を使うもの」「海運業界」「コスト削減に寄与するもの」に絞り込まれました。次に実際に解決する課題を絞り込んでいきます。ここでは「現場の業務視点」と「AI活用分類視点(8つのAIタイプ)」の2つの視点で考えて見ることにします。一旦はコアバリューである「画像解析」を横に置いて、広く考えてみます。

現場の業務視点

貨物船船員の業務を想像して、コスト削減に寄与しそうな業務にあたりをつけてみます。

積み込み〜出航
  • 荷物の積み込み
  • 燃料補給
  • 目的地と到着目標時刻を確認
  • 航路検討・決定
  • 航行管制との通信
  • 離岸
  • 港を出て海洋へ出る
海洋での業務
  • 操船
  • 当直(ワッチ)
  • 他船舶や漂流物との衝突回避(安全管理)
  • 燃料/速度管理
  • 航海日誌記録
  • 設備メンテナンス
  • 清掃
  • 食事
  • 港との通信
着港〜荷下ろし
  • 航行管制との通信
  • 入港
  • 着岸
  • 荷物の運び出し
  • 船腹の清掃
  • 船内清掃
コスト削減に寄与しそうな業務

貨物船の業務想定から、以下のような業務がコスト削減に寄与するのではないかと想定しました。

  • 港湾内での衝突検知
  • 混雑する港湾内からの出航/入港計画立案
  • 当直業務の省力化・精度向上(異常検知)
  • 最適な航路の計画立案(所要時間、燃費、天候、安全性を考慮)

AI活用分類視点(8つのAIタイプ)

次に、AI活用分類視点で考えてみます。フレームワークとして、ZOZOテクノロジーズの野口さんが紹介されている8つのAIタイプを利用しました。(代行型と拡張型は特に分けなかったので今回は4つのタイプですね。)


引用:https://markezine.jp/article/detail/29307

識別系
  • 浮遊物検知
  • 船舶検知
  • 岸までの距離計測
  • 船内業務、荷運び業務での危険行動検知
予測系
  • 雲、湿度、天気予報などからの時化予測
  • 最適燃料配分
  • 最適航路計画
  • エンジン、設備異常検知
  • 危険地帯のレコメンド(船舶種類、海流、潮の高さによって変化)
  • 献立立案
会話系
  • 管制官とのやり取りの省力化(チャットボット)
  • 外国籍船員との会話の翻訳
実行系
  • オートパイロット(海洋)
  • 自動離岸/着岸制御
  • 危険発生時の回避行動の自動化
その他(AI以外の機能)
  • 航海日誌(ログ)の自動取得

(やってみて実感しましたが、視点を変えて考えると普通では想像しないようなもの(船内業務、荷運び業務での危険行動検知や外国籍船員との会話の翻訳など)が発想できて良いですね。)

仮説検証

仮説で考えた課題が、現場で実際に発生しているのか、あるとしたらその対策状況はどのような手段で、どの程度浸透しているのかを調べてみます。調べる方法はweb検索です。

web検索結果

googleにて「船舶 AI」 で検索を行ったところ以下のようなサイトがヒットしました。

親会社の宣伝をするつもりではなかったのですが、富士通の取り組みが多く見つかりました。主な取り組みは以下の2点でした。

  1. 港湾業務全体を最適化する「スマート港湾オペレーション」(港湾内での衝突リスク予測)
  2. 他船を自動識別する画像認識システムによる見張り業務の自動化で衝突を回避

1の衝突リスク予測ではシンガポールや東京湾海上交通センターでの実証実験に関するプレスリリースも出されていました。2の見張り業務の自動化は、株式会社商船三井様と株式会社センスタイムジャパン様でも実証実験を開始されているようです。

その他、上記の国土交通省の資料によると私が想定した「自動操船」「自動離着岸」「衝突回避」「機器の予防保全」などの課題は実際に多くあるようで、技術開発も進められているようです。

考察

仮説検証を通じて、仮説として設定した課題が実際にあること、その取り組みが(かなり身近なところで)進行していることがわかりました。また、弊社のコアバリューである画像解析で課題を絞り込むと「見張り業務(当直)の改善」「港湾内での衝突の回避」などが対象になり、先行企業が実証実験を行なっているものと合致していることもわかりました。

普通に考えれば「レッドオーシャン市場」だと考えられますが、逆に考えればまだ実証実験の段階なので参入の余地がありそうですし、別の視点で見れば中小規模の船舶向けにプロダクトを開発していくこともできそうです。

まとめ、次にどうするか

どのようなプロダクトに仕立てていくか、PRD (プロダクト製品要求仕様)またはone pagerを書いて詳細を詰めてみたいと思います。(PRDについてはこちら が詳しいです。)書いてみたら近日中に公開させていただきます。また、船舶会社、船主、船員の方でご興味ある方いらっしゃいましたら一度現状の課題などお話しさせていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

余談という皮を被った本題

ここまで「海運業務のコスト削減」について考えてきましたが、実は「船員や家族の孤独を埋める」という課題にも関心があります。(というかこちらの方が関心があります。)

willのところで私の父がタンカーに乗っていると書きました。父は私が生まれるずっと前から船乗りで、3ヶ月船に行き、1ヶ月家に帰ってくると言うサイクルを続けていました。子供の頃、父が家にいるときに「お父さんはいつ(船に)帰っちゃうの?」と母に問いかけたあとすごく怒られたことが記憶に残っています。私の中では父の帰る場所は船で、我が家には「たまに来ている」と言う感覚でした。寂しくなかったといえば嘘になります。母も(収入はあるとはいえ)女手一つで兄弟を育てるのに苦労したと思います。

また、1ヶ月ある休みの中で、父はあまり家にいなかったように思います。父は親戚も知り合いも多く、よく1人で出かけていた気がします。考えるに、家にいてもやることはなく(家にいるときは駐車場や倉庫を作るなど大規模なDIYをやっていました)、居場所がないのでいろんな場所に出かけていたのではと思います。

船員不足は業界でもずっと課題になっているようです。業界へ入る人が少ない、入っても辞めてしまうのは過酷な労働環境も一因ですが、家族と離れる時間の多さも大きな要因の一つだと思います。自動運転などで省力化を達成しても船は完全に無人にはなりません。
長期間の不在が繰り返されることで発生する「船員や家族の孤独」。「海運業務のコスト削減」をきっかけとして、この問題に切り込んでいきたいと思っています。

追記

ここまで書いた後、弟と話す機会があった(父親が怪我で手術らしいのでその相談)ので実際の現場はどうなのかを聞いてみました。ちなみに弟(と父)が乗っている船は約500トンの5人乗りケミカルタンカーで内航船です。

  • 総じてあまり困っていない←←←
  • 当直は眠くて大変ではある。瀬戸内など無灯火の船舶がおり気づくのに遅れる場合もある。事故は海洋で起こることが多い
  • 港湾での事故はあまり聞かない。小型船だからかあまり他の船と密集することや混雑するようなことはない。
  • 自動操舵は2種類ある(航路を一方向に保つものと、電子海図に航路を入れてそれ通りに航行するもの)が、どちらも基本的に使わない。自動操舵をしていても結局舵の前にいなければならない、かつ航路は頭に入っているので手動でやっても労力は変わらない。さらにPCを使える人がほぼおらず、波が荒い場所や狭い場所などは結局手動となるので誰も自動操舵は使わない
  • 離岸着岸は難しい。船によって動きに特徴があるし、低速時の船体の動きは前後左右などに直線的に動くものではないので経験を要する。
  • 3ヶ月乗船、1ヶ月休暇のサイクルは主に帰宅時の交通費削減とシフト(船員の乗船計画)によるものと思われる。船の特性や船員同士のコミュニケーション、私物の移動などを考えると同じ船に乗る方が効率的であるが1ヶ月乗船、1週間休みなどではシフトが組みづらい。(2ヶ月乗船して1ヶ月弱休暇と言う会社もあるらしい)
  • 若手は結構乗ってくるがすぐ辞めるので結果として年配の船員が多くなる。そのため体力が必要な作業などを行うときは辛い。
  • 人員不足で休暇がなかなか取れない。しかしコロナの影響で貨物が減り、乗船時の休みは多い。
  • 危険でキツくて家に帰れないのであまり長く続けたい仕事ではない。が、他の仕事に転職できるかどうかはわからない。タグボートの方が3日勤務1日休みなどであったり、内航船より給与が良いので良いなと思っている。

N(標本数)=1ですがリアルな声が聞けました。1次情報に当たることの大切さを感じます。大型船と小型船とでは違う部分も多そうです。

船舶会社、船主、船員の方など本記事に関心いただけた方へ

船舶会社、船主、船員の方、そのご家族など本記事に関心いただけた方は是非フィードバックをいただきたいです。また、もし可能であれば現状お持ちの課題などヒアリングさせていただけると嬉しいです。お手数ですがこちらからコメントをお願いいたします。

お問い合わせ先

WRITER
Yoshitsugu Miyazaki

データサイエンティスト / ディレクター

宮崎   義継 Yoshitsugu Miyazaki

大手生保系SIer、TOCによるマネジメント変革、Windsurfing labプロジェクトでの組み込み開発及び事業開発を経て2019年11月より富士通クラウドテクノロジーズに入社。データ活用サービスの構築及び企画を担当。

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