調査研究ノート「匿名加工されたデータの利活用に向けた課題」サマリとその課題解決に向けた動き

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はじめに

こんにちは、データデザイン部でアドバイザリーを担当している黒政です。

先日、総務省の学術雑誌『情報通信政策研究』に私の調査研究ノート「匿名加工されたデータの利活用に向けた課題」[1]が採録されました。(以下「調査研究ノート」といいます。)

出典:学術雑誌『情報通信政策研究』第3巻第2号
調査研究ノート「匿名加工されたデータの利活用に向けた課題」[1]

この調査研究ノートは、平成29年の個人情報保護法(以下、個情法)改正で「匿名加工情報」が民間で導入され、公的部門でも同等の類型である「非識別加工情報」が導入され、それら匿名加工データを取扱う場合の規律と課題をまとめたものです。公的部門とはいえ数多ありますが、念頭に置いたのは国立大学や研究機関です。

国立大学は独立行政法人等個人情報保護法(以下、独個法)で規律され、民間が対象の個情法とは異なります。
この辺は、12月の記事「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」にみるデータ契約に関わる法的な基礎知識[2]でも紹介しています。

調査研究ノートの読み方

もくじは以下の通りで、匿名加工情報と非識別加工情報の定義、民間と公的部門における取扱規律をまとめながら、匿名加工情報と非識別加工情報の運用を整理しました。

調査研究ノート「匿名加工されたデータの利活用に向けた課題」もくじ

1.はじめに (III-21)
2.匿名加工データの取扱に関する制度 (III-24)
2.1.匿名加工データの定義と加工基準 (III-26)
(1)定義
-匿名加工情報
-非識別加工情報
(2)加工基準
(3)加工措置とデータ類型
2.2.匿名加工データの取扱規律 (III-28)
2.3.現行法における民間事業者での匿名加工データの利活用について (III-31)
2.4.公的部門における匿名加工情報の取扱を規定しなかった行個法、独個法の改正 (III-31)
-行政機関と独立行政法人等を一体と見た規律
-匿名加工情報の取扱は改正対象外
3.現行法における公的部門での匿名加工されたデータの取り扱い (III-34)
3.1.匿名加工情報を独立行政法人等が集約し、個人情報として民間事業者へ提供する場合の扱い (III-35)
<1> 匿名加工情報の受領時
<2> 独立行政法人等における匿名加工情報の利活用
<3> 独立行政法人等から民間事業者に提供する場合の考え方
<4> 独立行政法人等から受領した個人情報の民間事業者における取扱
3.2.匿名加工情報を地方公共団体が集約し、個人情報として民間事業者へ提供する場合の扱い (III-38)
<1> 地方公共団体が民間事業者の匿名加工情報を受け取った場合
<2> 地方公共団体が民間事業者へ個人情報を提供する場合
3.3.独立行政法人等が集約し非識別加工情報に加工して提供 (III-40)
<1> 受け取った匿名加工情報の個人情報ファイル簿への登録
<2> 非識別加工情報作成に関する提案募集
<3> 非識別加工情報の作成と提供
<4> 受領した匿名加工情報と加工後の非識別加工情報の姿
3.4.地方公共団体が集約して非識別加工情報として提供する取扱 (III-43)
3.5.公的部門における匿名加工情報と非識別加工情報の取扱まとめ (III-43)
4.さいごに (III-44)

皆さんにお伝えしたい実際の運用視点でのポイントは二つです。

ポイント1

  • 民間事業者が非識別加工情報を扱うときは提供元との契約をよく読んで他のデータと分けて管理すること(2.3章)

表1 .匿名加工情報と非識別加工情報の取扱事業者における規律

匿名加工情報と非識別加工情報の規律は「同じ」とする解説もありますが、非識別加工情報取扱事業者としては厳密に分離して管理する必要があります。データ内容いわゆる外形からは判断できないので注意してください。

ポイント2

  • 匿名加工データは民間事業者が集約して利活用することをお薦めすること

現行の規律は、匿名加工データは民間事業者(だけ)が扱うことでうまく回るよう整理されています。
今回の調査研究ノートで、公的機関が匿名加工情報を集めると面倒なことが起きることがわかりましたので、公的機関がデータ受け渡しルートの中間に入ったりキャッチボールは避けることが賢明です。
公的機関が間に入る場合は、下図のように徹底して個人情報のまま管理運用するか統計情報にした上でデータを受け渡しすることをお薦めします。

公的部門の集約機関が介在したデータフロー

これは2.4章「公的部門における匿名加工情報の取扱を規定しなかった行個法、独個法の改正」が原因となり、3章でパターン毎に説明しています。

調査研究ノートに至った匿名加工コンテストとEIP報告

調査研究ノート本文でも触れていますが、匿名加工コンテストの企画検討がきっかけでした。
民間のコンテスト主催者が匿名加工情報を出題データAとしては配布し、参加者は出題データAに対して匿名加工情報Bを作成し有用性と安全性を競うコンテストを想定しました。このとき、BからAを識別できないことかつ復元できないことが加工条件でありコンテスト審査基準になります。
うまく加工するとBは非個人情報であり、さもなくば匿名加工情報のまま主催者に提出されます。
データの流れを検討する中で、参加者が国立大学や国立の研究機関の場合、コンステストデータはいかなる規律で運用することになるか一筋縄で整理できないことに気がつきました。(当然、企画はボツです)

そして、その検討したプロセスと状況を整理し解決策についてまとめ、情報処理学会 電子化知的財産・社会基盤(EIP)研究会にて以下の報告(以下EIP報告)を行いました。
それが、調査研究ノートで参照している「匿名加工情報および非識別加工情報の運用整理と利活用に関する考察」[3]になります。

EIP報告「匿名加工情報および非識別加工情報の運用整理と利活用に関する考察」要点

今回は、匿名加工情報、非識別加工情報に注目してデータの取扱に関する整理を行い、三年ごと見直しを検討している有識者への情報提供を意図した

-現状-
・匿名加工情報は民間主体、民間中心で運用することを前提としている
→できれば国立大学や研究機関はデータを受け取るだけにする
・匿名加工情報と非識別加工情報は全く別物

-利活用促進のための提案-
・独立行政法人等において、民間から受領した匿名加工情報をそのまま取り扱う規律の整備
・独立行政法人等において、非識別加工情報の自主的な生成や取扱の制度の導入

出典 : 黒政敦史 「匿名加工情報および非識別加工情報の運用整理と利活用に関する考察」[3]  表示※

※ここに掲載した著作物の利用に関する注意

本著作物の著作権は情報処理学会に帰属します。本著作物は著作権者である情報処理学会の許可のもとに掲載するものです。
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情報処理学会 著作権規程
第5条5項
著作者は、投稿した論文等について本学会の出版物発行前後にかかわらず、いつでも著作者個人のWebサイト(著作者所属組織のサイトを含む。以下同じ。)において自ら創作した著作物を掲載することができる。
ただし、掲載に際して「情報処理学会倫理綱領」に則ること、ならびに本学会の出版物にかかる出典(当該出版物が発行された場合)及び利用上の注意事項を明記しなければならない。

 

課題解決に向けた法改正の動き

内閣官房において、令和3年度通常国会への改正法案提出に向けて民間部門、行政機関、独立行政法人等に係る個人情報の保護に関する規定を集約し、一体的に規定すること及び事務処理体制の在り方について検討するため、「個人情報保護制度の見直しに関するタスクフォース」[5]を開催しています。

出典:内閣官房 「個人情報保護制度見直しの進め方(案)について」[6]

令和2年3月9日の検討会資料によると、大きな方向性は「個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法の3本を統合して1本の法律とし、個人情報保護委員会に一元的に所管させることを前提に、具体的な制度設計のあり方について議論」[6]としており、匿名加工情報を含め個人情報や付帯する規律に関わることの課題は解決方向ではありますが、行政機関、独立行政法人等は2年、自治体はその先で、抜本的な解決にはもう少し時間がかかりそうです。


参考リンク


[1]学術雑誌『情報通信政策研究』第3巻第2号
https://www.soumu.go.jp/iicp/journal/journal_03-02.html

調査研究ノート「匿名加工されたデータの利活用に向けた課題」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000666337.pdf

[2]「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」にみるデータ契約に関わる法的な基礎知識
https://data.nifcloud.com/blog/ai-guideline-regal-knowledge/

[3]黒政敦史,「匿名加工情報および非識別加工情報の運用整理と利活用に関する考察」
情報処理学会 研究報告電子化知的財産・社会基盤(EIP),2019-EIP-84(2),1-8 (2019-05-27) , 2188-8647
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=195924&item_no=1&page_id=13&block_id=8
(直リンクはしていません。論文の表示は本文を参照してください。)

[4]情報処理学会 著作権規程
https://www.ipsj.or.jp/copyright/ronbun/copyright.html

[5]個人情報保護制度の見直しに関するタスクフォース
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kojinjyoho_hogo/index.html

[6]第1回 個人情報保護制度の見直しに関する検討会 令和2年3月9日
資料1:個人情報保護制度見直しの進め方(案)について
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kojinjyoho_hogo/kentoukai/dai1/siryou1.pdf


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WRITER
Atsushi Kuromasa

Atsushi Kuromasa

黒政   敦史 Atsushi Kuromasa

●外部参加団体や活動・・・情報法制研究所 上席研究員、情報法制学会 会員、情報処理学会 電子化知的財産・社会基盤研究会(EIP) 幹事、CSS2020 PWS2020実行委員など。 ●最近の論文・寄稿・・・「"匿名加工されたデータの利活用に向けた課題","黒政敦史","学術雑誌『情報通信政策研究』3巻2号"」、「"PWS Cup 2019: ID識別・トレース推定に強い位置情報の匿名加工技術を競う", "村上 隆夫,荒井 ひろみ,井口 誠,小栗 秀暢,菊池 浩明,黒政 敦史,中川 裕志,中村 優一,西山 賢志郎,野島 良,波多野 卓磨,濱田 浩気,山岡 裕司,山口 高康,山田 明,渡辺 知恵美","コンピュータセキュリティシンポジウム2019論文集,2019,1485-1492 (2019-10-14) "」、 「"匿名加工情報および非識別加工情報の運用整理と利活用に関する考察", "黒政 敦史", "情報処理学会 研究報告電子化知的財産・社会基盤(EIP),2019-EIP-84(2),1-8 (2019-05-27) , 2188-8647"」、「"個人データの保護と流通を目的とする匿名化と再識別コンテスト:PWSCup", "小栗 秀暢 ,黒政 敦史,中川 裕志,菊池浩明,門田 将徳", "情報処理学会デジタルプラクティス Vol.9 No.3 (July 2018)"」、「"ビッグデータの加工・取扱 -匿名加工情報の役割と活かし方-", "黒政 敦史", "情報処理Vol.59No.4Apr.2018 小特集 情報社会 -今そこにある課題-"」、「"匿名加工情報の加工方法と有用性・安全性指標の考察~匿名加工・再識別コンテスト2017から~", "黒政 敦史 , 小栗 秀暢 , 門田 将徳", "情報処理学会 研究報告電子化知的財産・社会基盤(EIP),2017-EIP-78(9),1-8 (2017-11-22),2188-8647"」

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